【かなめ日記】「目指すべき日本のかたち」

掲載日:2012.01.23

2011年12月3日(土)に行われた一般社団法人政経倶楽部連合会第84回例会における講演の要約です。

●ピンチをチャンスに変えて日本を発展させる

本日は「目指すべき日本のかたち」というテーマで、国内の話と世界に向けての話ということでお話させていただく。
3月11日の東日本大震災後、日本は大きく姿かたちを変えた。姿かたち以上に、人の心が大きく変わった。だが、決して悪い意味だけではない。ピンチをチャンスに変えていく思いが、目指すべき国造りには極めて大事だ。
東日本大震災時、経済産業大臣政務官であった私は、原発事故直後から首相官邸に詰めた。3月12日から15日にかけては、正直、日本は終わりか、という気持ちに何度かさせられた。情報が何もない、何が起きているのかわからないことほど恐ろしいものはなかった。全電源喪失という事態の中、直後に官邸にいた一人としては、最悪は免れたのではないかと思っている。
6月から3か月間は、原子力災害現地対策本部長として、福島に常駐した。原発事故対応の最前線で、東京電力、福島県、警察、自衛隊、政府機関からなる総勢150名の合同チームで、活動した経験は大きい。
野田政権後、9月に立法の現場に戻り、経済産業委員会筆頭理事、東日本大震災復興特別委員会理事に就任した。原発災害の現場を最もよく知る国会議員として、震災復興や、経済対策に積極的に取り組くんでいく所存だ。

●グリーン・イノベーション(環境エネルギー革新)で産業と雇用を生みだす

「目指すべき日本のかたち」ということで、まず、国内ではどう考えるか。
3.11以前から、日本はまったなしの大変厳しい経済状況だ。
強みを生かす成長分野として、民主党は2つの柱の成長戦略、グリーン・イノベーションとライフ・イノベーションを組み立てた。3.11以降は、このグリーン・イノベーションをさらに加速をして、日本の中に新しい産業と雇用を生んでいくことが肝要だ。
原発は、できる限りスピードを上げて減らすべきだと思う。
世界から「日本に行けばあらゆる最先端の再生可能エネルギー事業が見られるんだ」という国造り、また、日本の地域ごとに、エネルギー事業を競って始められるような社会をスタートさせていきたい。

●新エネルギー政策は、分散型のエネルギー供給体制を組むことが肝要

私は地熱に関心を持っている。超党派の地熱議員連盟の事務局長もしている。温泉も豊富な福島の場合は、地熱発電が有効だ。
ところが、地熱発電は、この10年間日本では一基もできていない。日本に力がないわけではない。人口30万の小国ながら地熱大国アイスランドの技術はすべて日本のものだ。富士電機や三菱重工の技術だ。なぜ、日本でできないのか。それは今まで、スター級の原発があったがゆえに、他のエネルギー政策に力が入れられてこなかったことによる。また様々な規制もある。しかし、技術が進んで環境破壊も最小限に抑えられるようになっている。
今後は、風力、太陽光、地熱等、それぞれの選択肢を、それぞれの地域が分散的に開発することが肝要だ。日本の社会が目指すべきエネルギー政策の一つは、分散型のエネルギー供給体制を組んでいくことだ。全量買い取り法も成立した。工場の屋根やビルの屋上などいろいろなところで作った電気を、全量、電気会社に売ることができる。そのスキームを使って、いろいろな業種、業界にいる方々があらたに発電者として参入してほしい。

●ライフ・イノベーション(医療・介護改革)で医療と産業の融合を

医療、介護分野は、日本の内なるマーケットとして、大きな潜在力を占めている。もちろん、日本の宝であり、国民のベースとなる国民皆保険は守りながら、成長できる分野だ。ちなみに、医療機器で6000億円、医薬品で2兆2000億円弱の輸入超過と言われている。これだけすぐれた技術があるのに、なぜ、輸入が圧倒的に多いのか。それは、医療と産業を一緒にしていくという発想がなかったからである。例えば、痛くない注射針の技術は日本にしかなかったのになかなか市場に出なかった。医療現場のニーズとものづくりのシーズのマッチングが日本は得意でなかった。
ちなみにライフ・イノベーションは、厚生労働省の所管だ。経済産業省は、言うまでもなく経済、産業を牽引する役所で、自動車や家電産業に象徴されるように、規制が少なく競争も厳しい。逆に、経済産業省以外の所管にこそ、産業力として発露をしていない分野がたくさんある。多くの規制があり、マーケットが潜在的にありながら、産業力として発露していない分野がたくさんある。その象徴が厚生労働省所管の医療分野だ。
その他、文化庁のクールジャパン分野、文部科学省の教育分野、そして農林水産省の農業だ。日本の農業の潜在力を引き出し、産業化に挑戦していきたい。

●日本はアジア全体をマーケットとして成長すべき

「目指すべき日本のかたち」として、海外に向けてはどう考えるか。
日本はこれから人口も減り、働く人も減り、子どもも減る。その日本は何で食べていくのか。それは、アジアをどう取り込むかに尽きる。
日本は、絶好なポジションにいる。人口は1億2000万人。国民皆保険制度を持つ長寿国として世界から憧れられている。しかも、これから発展していく国々の近くにいる。いろいろ不平を言う前に、日本がどれだけ恵まれていて絶好のポジションにいるのか悟らなければいけない。中国、インド、ベトナム、バングラデシュ、インドネシア、これらの国が隣にいる。それだけで、アメリカやヨーロッパに比べて圧倒的に優位なポジションを押さえている。
これからの経営は、国内だけでなく、常にアジア全体が自分のマーケットと考えるような経営意識でいかなければいけない。無限な可能性がある。

●TPP(環太平洋経済連携協定)。高価値の農業で挑戦せよ

その中でTPPの意味は大きい。わけのわからないルールで足止めを食らうような物流は改めなくてはならない。国際的ルールを作っていく中で、日本にプラスの方が多いのは明らかだ。TPPはこれから交渉して、国益にかなったルールを合意してもらう。交渉は駆け引きだ。国益にかなわなければ決裂することもある。
農業は大きな可能性がある。農家が攻めの姿勢を持てるよう、農家が挑戦する意欲を持てるように政治を持っていかなければならない。諸外国と、土地の広さで比較したら比べものにならない。しかし商品価値は高い。
中国沿岸部に住む年収1000万円以上の富裕層は、日本より広いマーケットともいえる。農林水産省と経済産業省が協力して挑戦してもらいたい。

●日本の「システム輸出」は世界の幸福度を上げられる

日本が当たり前のように行ってきたシステム技術とオペレーションは、世界の国々からは、驚嘆のまなざしで見られている。例えば、列車の運行システムや、新幹線等。それらを含めて、日本には世界に向かって大きな使命がある。
世界の中の平和と繁栄に貢献し、世界中の幸福度を上げていくために大きな役割を担っている。特に貧しい国々の多いアジア地域においてその役割は大きい。例えば、日本の石炭火力の技術を導入すれば、中国やロシアのCO2排出を極めて小さく抑えられる。世界の温暖化防止に大きく貢献できる。

●日本の「原発システム」は世界平和のために必要

日本の原発のシステムも世界的に必要だ。日本は東アジア全体の原発に関心を持つべきだ。理想論は世界中の原発がなくなることだ。だが、日本がほかの主権国家の原発を止めることはできない。
今後、中国の東海岸に新規で60基作られる。何か起きれば、まず日本に影響が出る。ブラックボックス化するよりも、日本の大失敗を知見として蓄積し深く関与すべきだ。システム輸出として、中国、ベトナム、韓国、インド、トルコ、ヨルダン等の国々としっかり連携して進めていくべきだ。
原発事故の後、3つの課題がある。1つは、近隣諸国での今後の原発事故。これは確実に起こることを想定しておくべきだ。中国は、まだまだ原子力技術者の人材育成が追いついていない状況だ。2つ目のリスクは、地震だ。東海・東南海・南海地震の発生確率は高まっている。予想震源地から想定すると千葉県はじめ首都圏全体の対策強化が必要だ。3つ目はテロ対策。原発事故でその危険性を白日の下に晒してしまった。

●日本は偉大な国。だからこそ世界に出ていく使命がある

先月来日したブータン国王の国会演説は感動的だった。
「仮にこのような不幸(東日本大震災)からより強く大きく立ち上がることができる国が一つあるとすれば、それは日本と日本国民である。」「他国であれば、こんな大惨事が起きて国家を打ち砕き、無秩序、大混乱そして悲嘆をもたらしたであろう事態に、日本国民の皆様は、最悪の状況のもとでさえも、静かな尊厳、自信、規律、心の強さを持って対処されました。文化、伝統、および価値にしっかりと根ざしたこのような卓越した資質の組み合わせは、我々の現代の世界で他に見出すことはほぼ不可能です」
けっしてリップサービスだとは思わない。私は経済産業大臣政務官として海外出張に行く先々で、同様の日本への賞賛の言葉を数多く聞いた。日本人が、いちばん気づいていない。この日本人の偉大さを、もっと国民自身が知ってほしい。知れば自信が出て来るし、挑戦意欲も出てくる。3.11以降の社会で、「日本人は外に出ていく使命があるのだ」ということを、真剣に受け止めてほしい。

●日本は絶好のポジションにある。もう議論ではなく行動すべき時

日本は今、暗い状況だ。世界で最も借金を抱え、高齢化、少子化が進み、そして東日本大震災、原発事故に見舞われた。自殺者も年間3万人以上いる。だが、視点を変えれば、日本は絶好のポジションにある。風評被害を乗り越えて、無限に広がる日本の可能性を生かしてほしい。
新しい国造りの中で、他には「18歳からの選挙権実施」で若者の政治参加を促し、「日本史の高校必修化」、「英語教育の強化」を図りたい。
もう議論ばかりではなく、行動する時だ。上手くいかなければ軌道修正する。そういう柔軟な姿勢でどんどん具体的な政策を前に進めていく。日本は正念場に来ている。

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