憚ること勿れ

掲載日:2019.02.04

新年のとある講演会でこんなクイズが出された。「中国からの増え続ける訪日観光客が最近、訪日前に本国で買っておくものは何か? 」日本での爆買いは有名だが、さて訪日前に買うものとなると、、、と思いきや、答えは「財布」だそうだ。キャッシュレスがどんどん進む中国と、未だ小銭をガサゴソ探す風景が目立つ日本との対比であり、ジョークでも何でもない。2年前に私が訪ねた重慶市でも、日本からの駐在支社長から、重慶市のコンビニで多くの若者はもはや現金を使わない、と伺ったし、国際比較でも日本はキャッシュレスで中国はじめ世界に大きく出遅れている。私も国会でこのことに警鐘を鳴らした。

焦ったのか、血迷ったのか、この周回遅れを挽回する逆転ホームランを狙って、今年の10月から始まる消費税率引き上げでは、キャッシュレス支払い優遇策が打ち出されている。具体的には、キャッシュレス支払いの場合、現金なら10%の税率が、8%(フランチャイズチェーン加盟店の場合)ないしは5%(個別店舗の場合)に下がり、現金なら8%の軽減税率が、同じく6%(フランチャイズチェーン加盟店の場合)ないしは3%(個別店舗の場合)に下がるというものである。全体では、殆どの国民には寝耳に水の、10月から消費税率は実に5つのパターンになるというのだ。

しかし、タダでさえ複数税率やインボイスの導入が消費者や中小企業、小売事業者を混乱させるのに、それに輪をかけてこうした複雑な施策を打ち出すのは、10月からの消費に深刻な影響を及ぼす可能性が大きい。しかも、安倍総理は、こうした還元策の総金額メリットが、増税分を上回ると胸を張るが、それ即ち社会保障財源としては何も残らないということであり、だったらそんな増税など始めからやらなきゃいいと多くは感じる。そもそもの複数税率が、より多くの金額メリットを高所得者層に与えてしまうのに輪をかけて、キャッシュレスの利用で更に高所得者中心にメリットが増えてしまえば、正にこれは天下の愚策の「二乗」である。

中国の古い諺に、過ちては改むるに憚ること勿れ、というのがある。安倍総理も聞いたことはあるだろう。総理の人生で、小銭をガサゴソして日常の買い物をされたご経験がどれだけおありかは不明だが、この末代まで禍根を残す「キャッシュレス優遇策付き複数税率消費税導入」は、一度ご破算にするに若くは無し、である。その上で、キャッシュレスと消費税とは切り離して、シンプルな単一税率による消費税率引き上げをしかるべきタイミングで行い、同時に、給付付き税額控除で低所得者層ピンポイントの支援策も講ずるべきなのである。更には、民主党政権時代に掲げられた総合合算制度の導入により、介護や医療そして子育てなどが一気に押し寄せても世帯当たりの経済負担額には上限を設け、暮らしの安心を確実なものとすべきなのである。

衆議院議員
たじま要

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